高尾発松本行き

高校の卒業式が終わった数日後の晴れた日の朝、僕は国鉄高尾駅のホームに立ってます。天狗のオブジェの脇で。そこから高架線をひっきりなしに停まっては発車していく京王線の電車を見ています。

今から僕は信州大学の理学部を受験するため、高尾発松本行きの普通電車で松本に向かいます。なぜ信州大学を受けるかというと、多分北杜夫の影響でしょう。本当は北海道大学に行きたかったのですが、共通一次試験で全くダメ。というか「この偏差値で受かる国公立大学はまずないでしょう」といわれてました。でも「万が一合格したら儲けもの」という気持ちで2番目に行きたかった信州大学に願書を提出しました。

その日の朝早くに家の最寄り駅から京急に乗り、仲木戸で降りてすぐ向かいの東神奈川駅で松本までの切符を買いました。当然学割。横浜線に乗って八王子で乗換え、誰も乗ってないオレンジ色の下り中央線快速で終点高尾につくころには、ラッシュ時間も終わった誰もいない寂しい駅でした。

昔、横須賀線で使っていたような紺とクリーム色の電車がホームに到着したのは、僕が高尾駅へ着いてから一時間ほど。「もしかして並ばないと座れないかもしれない」と思って早めに高尾までやってきましたが、全くの思いすごし。1ボックス貸し切りどころか、1両に10人も乗ってません。

電車は発車すると、すぐに山のなかへ入っていき、長いトンネルに入ります。小仏トンネルです。それをぬけると相模湖駅に到着。天気は快晴が続きます。真っ蒼な湖面が一瞬観えました。相模湖駅から先もトンネルとカーブの続く山の中。大月から先は標高が高くなり、線路のまわりは根雪が残るようになります。関東地方と甲信地方との分水嶺、笹子トンネルをぬけると、頂きを真っ白い雪に覆われた山々が現れました。

電車が甲府駅に滑り込んだとき、ホームに若い女性が数人いるのに気付きました。電車が停まってしばらくすると、女の子がひとりホームを走ってきて車内の僕に手をふります。驚きました。高校の同級生でした。

彼女たちは、卒業旅行に清里のペンションに行くため、新宿から特急に乗って甲府で降り、小海線の分岐する小淵沢までこの電車に乗ることにしたそうです。彼女たちは高校を卒業してそれぞれ就職が決まってて、僕のところに走ってきたKさんは都市銀行への就職が決まってました。

Kさんとはそれから小淵沢まで色々話しをしました。高校1年生のときにとなりの席だったのをきっかけに、廊下で会えば色々話す間柄でした。1年生の頃の楽しかった話、文化祭や運動会で盛り上がった話、涙がでるくらいの笑い話も出てきました。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。

もうすぐ小淵沢の駅に着くというとき、彼女がボソッといいました。「清里なんか行くより、このまま松本までついてっちゃおうかな」それに対して僕は「いいよ。でも今晩はユースホステルだよ」・・・ もっとまともなことが云えなかったのか、後から後悔しました。僕は彼女を好きだったのかもしれません。

彼女は小淵沢で降りていきました。満面の笑みを残して。

それからしばらくは何故か寂しい気持ち。高校を卒業した現実。受かる可能性の殆どない受験。浪人生活への不安。そして、楽しかった高校生活。

電車が諏訪湖畔を過ぎたころ小雪が舞い始め、辰野を過ぎたら山の中へ入っていきました。当時の中央東線は、みどり湖経由ではありません。たしかスイッチバックもありました。「遠い国、信州へやってきた」とホントに思いました。標高があがってくるとまわりの景色は一面の雪景色。塩尻へ到着すると、空は再び青空へ。

高尾を発車してから4時間以上かかったと思います。終点の松本駅へ到着。電車から降りると風が冷たかったのを覚えてます。改札口を出てすぐ、お腹が空いていたので待合室で立食い蕎麦を食べました。「これが信州蕎麦か」と思いましたが、僕に味の違いは分かりません。

階段を降りて駅前へ出てみると、埃がすごいのに驚きました。スパイクタイヤが道路を削った埃です。正直、「こんな空気の汚いところに住みたくない」と思いましたが、とんだ取り越し苦労。予想通り試験は不合格でした。
関連記事

12:14 | 電車系 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
ブルーバード810(うちにあった車) | top | 修善寺ツーリング

Comments

post a comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://tako134.blog71.fc2.com/tb.php/441-cf35109d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)